令和8年度税制改正大綱の注目点 【第3回】 ~法人課税/消費税/その他~
前回、前々回と「令和8年度税制改正大綱の注目点」について、取り上げています。個人所得税では「178万円の壁」、資産課税では暗号資産の分離課税化、相続贈与に関連して賃貸用不動産の評価方法の見直しなど影響が大きい改正が多いです。
今回は、「法人課税/消費税/その他」です。法人案件に取り組まれている方では重要な項目もあります。今日のお話は、有料会員の方、無料会員の方、皆さまがお読みいただけます。
【令和8年度税制改正大綱】
★【法人課税】 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の見直し
⇒中小企業者等において、取得価額が30万円未満である減価償却資産を取得して事業の用に供した場合には、その取得価額に相当する金額を損金の額に算入することができますね。これは法人案件を取り組まれる方では有名なものです。
ここですが、実は期限があって、「平成18年4月1日から令和8年3月31日までの取得」とされていました。これが3年間延長されます。
また、対象となる減価償却資産の取得価額は40万円未満に引き上げられます。ただ、対象となる法人から常時使用する従業員の数が400人を超える法人は除外されます。
これは、パソコンなどの物価高に対応したものでしょう。
★【法人課税】 「賃上げ促進税制」の見直し
⇒そもそも、「賃上げ促進税制」が分からないという方もおられるかもしれませんが、ここを解説し始めると、それで今日は終わるという話になりますので(笑)概要だけお話しますね。
賃上げ促進税制ですが、一言でいうと「従業員の給与を増やした企業は、増やした割合に応じて法人税額(または所得税額)から一定割合を税額控除する」という制度でした。これは2024年度(令和6年度)から物価上昇に対応し、企業の賃上げを促進するために強化されていたものです。加えて日本は実質賃金はずっとマイナスですから、日本経済において賃上げは非常に大きなテーマです。
で、この賃上げ促進税制ですが、「大企業向け、中堅企業向け、中小企業向け」で控除率などが異なり、全企業を対象としていましたが見直しが入ります。どういう内容かをザックリと伝えますと、大企業対象の賃上げ促進税制は廃止されます。中堅企業向けの制度は継続されるものの、要件が厳しくなり、中小企業に対しては、令和8年度中は現行の賃上げ促進税制が維持される方向です。ただし、中小企業向けにおける教育訓練費に係る上乗せ措置は廃止されます。
この改正はかなり難しいので、詳細気になる方はお調べください。
★【消費課税】 インボイス制度「3割特例」の創設
⇒インボイス制度には、制度導入時に経過措置として「2割特例」というものがありました。これはどういうものかというと、「預かった消費税のうち、8割を仕入税額控除したものとして扱い、実際に納める消費税を売上消費税の2割にできるというものです。
この「2割特例」ですが、令和8年9月末で終了となり、その後令和8年10月から令和10年9月までの2年間、3割特例が適用されます。これは、免税事業者から課税事業者になった方の納税額を売上税額の3割に抑えられる制度です。急激な税負担の増加を避けるための激変緩和措置といえるものですね。
★【消費課税】 免税事業者からの仕入れに係る控除割合の緩和・延長
⇒インボイス制度において、免税事業者等からの仕入れについて、一定割合を控除できる経過措置がありましたが、この期限が2年延長されます。令和8年9月末で終了予定でしたが、令和13年9月末まで延長されます。
また、控除できる割合は以下のように緩和されます。
・令和8年 10 月1日から令和 10 年9月 30 日まで 70%
・令和 10 年 10 月1日から令和 12 年9月 30 日まで 50%
・令和 12 年 10 月1日から令和 13 年9月 30 日まで 30%
<いつから?>令和8年10月1日以降に開始する課税期間から適用となっています。
★【その他】 青色申告特別控除の見直し
⇒青色申告特別控除の最大額は現在65万円ですが、これが75万円へ引き上げられます。ただし、75万円控除を受けるには、「優良な電子帳簿」の保存が必要です。優良な電子帳簿とは、訂正や削除の履歴が残るなど一定の要件を満たした会計ソフト等を指します。
一方で、e-Taxを利用せず紙で申告をおこなう場合の「55万円控除」は廃止される見込みです。紙申告の場合、控除額は一律10万円となるため、これは、デジタル化への移行を促す流れといえると思います。
<いつから?>令和9年分以後の所得税および令和10年分以後の個人住民税について適用されます。
「法人課税/消費税/その他」の部では他にも様々にあるのですが、影響が大きな部分ということで以上とさせてください。
今回の税制改正は、物価高対策を前面に押し出し、高市内閣の「責任ある積極財政」を体現した改正だと思いました。こうした税制改正に関連する記事は続々出てくると思います。ただ、総論の部分でも少し触れたとおりですが、何事も「自分で読み、考え、手を動かしてまとめてみる」ことが大事です。これは、今後ますます加速するAI時代において、私たち人間が差別化される大きな要素だと思います。
今回のシリーズもありがとうございました!
明日は、FPナレッジ2025年最終回「今年1年のタイトル振り返り」です。音声配信も行います。今年最後なので、ほぼ雑談のような形で今年1年を振り返ります。
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