年収178万円の壁を理解する<音声配信あり>

昨日、自民党と国民民主党は、所得税がかかり始める年収の最低ライン「年収の壁」を、現在の160万円から178万円に引き上げるという合意をしました。これは来年から適用になります。自民党はこの合意内容を盛り込んだうえで、本日、税制改正大綱が公表されます。

昨今、NISAつみたて投資枠18歳未満への解禁(正式名称は不明)や、住宅ローン控除の延長、高額療養費の見直しなど税制・社会保障関連の話材が多く出ていて、こうしたものは基本「税制改正の注目点」としてまとめる予定ですが、今回の「年収の壁」は、税制改正大綱の中でも大きな注目点になりますから、今回、この部分だけ先行して解説します。

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では、本題です。皆さま、「年収の壁」は正しく整理できておりますでしょうか。未だに「103万円の壁」などと言っておりませんでしょうか(笑)。103万円の壁はすでに存在しておらず、現行は160万円の壁です。そして、この160万円の壁は来年から178万円の壁になります。たった1年でさらに制度変更ですから、FPとしてはしっかり知識のアップデートを行っておきたいものです。

そもそも、「年収の壁」というのは、一定の年収を超えると税負担や社会保険料の負担が生じて、手取りが減少したり、配偶者や家族の扶養から外れたりする年収水準を指す言葉です。この「壁」があることで、パート・アルバイトなどで働く人の就業調整があったわけですが、ここに2024年(昨年)に大きな変更がありました。

それが、FPであれば長らく常識とされた、「給与所得控除55万円+基礎控除48万円=103万円」という所得税が課税され始める水準でしたが、これが「給与所得控除65万円+基礎控除95万円=160万円」とされたのですね。

ただ、この160万円という税金の壁は、給与収入が200万円相当以下の方(厳密には合計所得金額132万円以下の方)限定という形であり、恩恵を受けるのは少数であるというのが国民民主党の意見だったわけです。で、これを中間層にも拡大するということで、今回の「178万円の壁」という形で合意したわけです。

これ、上記簡単にお話していますが、めちゃくちゃ複雑なので順を追ってお話ししますね。

まず、そもそも2024年以前までは基礎控除ってどういう仕組みでしたでしょうか。以下です。

こういう非常にシンプルなものでした!なので、基礎控除48万円と理解されていた方も多いと思います。これが2025年(今年)はどうなったかなんです。こうなります。

上の表と見比べてくださいね。令和6年(2024年)以前は基礎控除は4段階にしか分かれていなかったわけですが、令和7年(2025年)と令和8年(2026年)は、合計所得金額2400万円以下で6つの区分に分かれています。今、話がややこしくなるので、令和9年(2027年)以後は見ないでください。

で、そもそも基礎控除というのは、48万円に10万円プラスした、58万円という考え方をしています。これを「基礎控除(本則)」といいます。ここに「基礎控除(特例)」が37万円プラスされて、基礎控除95万円(合計所得132万円以下の場合)という考え方をしています。

今回の「178万円の壁」では、「物価連動(2年ごとの見直し)」として、「基礎控除(本則)」(現行58万円)を、消費者物価指数(総合)に連動して4万円引き上げます。つまり、62万円です。そのうえで、「給与所得控除の最低保障額(現行65万円)を、4万円引き上げるという形をとります。つまり、69万円です。

・基礎控除(本則)…62万円

・給与所得控除の最低保障額…69万円

で、さらに、「基礎控除(特例)」が37万円を5万円引き上げて42万円。給与所得控除の最低保障額を5万円引き上げます。つまり、給与所得控除の最低保障額は、74万円です。

・基礎控除(特例)…42万円

・給与所得控除の最低保障額…74万円

これで、「基礎控除(本則):62万円+基礎控除(特例):42万円+給与所得控除の最低保障額:74万円=178万円」の壁が完成ということです(笑)。

問題は、この178万円の壁がどの所得層まで広がるかと言う部分です。国民民主党が昨日公表している、「20251218自民国民合意書」を見ると、以下のようにあります。

https://new-kokumin.jp/wp-content/uploads/2025/12/1f6d35a90e145111814d3d02914bf75c.pdf

併せて現行「37万円」の「基礎控除(特例)」の対象を現行「年収 200万円まで」から「年収475万円まで」に拡大する。さらに、年収475万円から665万円までを対象とする現行「10万円」の「基礎控除(特例)」を32万円引き上げる。

めちゃくちゃ複雑ですが、以下のような整理になるはずです(合意文書は「年収」となっていますが、基本は「合計所得」である点に注意)。

※注意点です。今回の基礎控除では、「基礎控除(本則)」(現行 58万円)を、消費者物価指数(総合)に連動して4万円引き上げるという考え方をしています。この4万円を引き上げをすべての所得層で公平に取り入れるという形であれば、合計所得2,350万円超のレンジから、52万円、36万円、20万円、そして、2,500万円超で4万円の基礎控除となるとも読み取れますが、おそらく違うと思います。あくまで、「基礎控除(本則)」(現行 58万円)の部で4万円引き上げると読み取れます。合計所得2,350万円超のレンジでの変更点に触れている内容は一切なく、私の計算だと上記になると思いますが、間違っていますと「訂正記事」とさせてください。

そもそもどうして、こんな複雑になったのでしょうか。

やはり、「178万円」という数字ありきで進んだという点だと思います。

今回の「年収の壁」ですが、2年連続で引き上げられる形となりましたが、これはあくまで物価の連動に応じてという形です。今後は、基礎控除と給与所得控除をそれぞれ消費者物価指数(CPI)の伸びに連動させ、2年ごとに見直すとしています。

めちゃくちゃ複雑です。速報版で書きましたが、書き始めると、めちゃくちゃ複雑で参りました…。

あと、この手の記事って、メディアも間違っている記事が多く(国民民主の当初の考え方もあるなど)かなり時間を要しました。今週末の税制改正大綱のまとめも大変そうですが、頑張ります。

今日は以上です。